• 対談ログ- feel.社内演出の現在地 (第四編):立田眞一 × 吉澤太智
  • 対談ログ- feel.社内演出の現在地 (第四編):立田眞一 × 吉澤太智

対談ログ- feel.社内演出の現在地 (第四編):立田眞一 × 吉澤太智

feel.

今回は、有限会社feel.所属の社内演出として活躍されている、立田眞一さんと吉澤太智さんに対談いただきました。
同じ「演出」という肩書きを持ちながら、立田さんは作画畑からの、吉澤さんは制作畑からのキャリアチェンジ。歩んできた道のりは対照的です。
そんなお2人の、台本なしの本音トークをお届けします。

有限会社feel.
2002年設立。東京都小金井市に本社を構える。
瑞々しい美少女が登場するアニメ制作に定評がある。主な代表作に「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完」「Summer Pockets」「千歳くんはラムネ瓶のなか」など。

 

立田 眞一(たつたしんいち)
有限会社feel.所属。スタジオ創成期から主に作画面で現場を支えつつ、近年は演出としても作品づくりに携わる。主な演出作品に「スパイ教室」「Summer Pockets」など。

 

吉澤 太智(よしざわたいち)
有限会社feel.所属。日本大学芸術学部 映画学科出身。新卒入社後、制作進行・設定制作・デスク等を経て演出へ。主な演出作品に「Summer Pockets」「千歳くんはラムネ瓶のなか」など。

 

演出としての仕事観とキャリア

――演出をやるようになって、考え方や視野は変わりましたか?

吉澤(以下 吉)仕事の性質が違うという点も含め、かなり変わったと思います。制作の仕事は周りに合わせる側面が相当あるので、待ちも多いですし、仕事をこなしてもなかなか減らないんですよね。その点演出の場合はやった分だけカットが減っていくので気持ちが楽になりましたし、その分他のスタッフの立場で物事を考える余裕も生まれました。制作で持っていた知識と演出での経験が融合して、仕事の見え方が変わった感覚があります。

立田(以下 立)自分の場合は作画の仕事も引き続きやっていることもあり、根っこの考え方はそこまで変わってないですが、演出を経験することで視野は広がったと感じています。例えば原画マンとしての視野だと目の前のカット単位でいかに良い仕事をするか考えるという感じですが、演出としての視野だと作品全体の流れを踏まえてプランを練るといったレベル感で捉えないといけない。更に撮影、編集、音響、仕上げといった、アニメーターの時は関わらなかった部署と関わるようになるので、その点では確実に視野が広がったと思います。一方で生活リズムはほぼ変化なしですね。

吉)立田さん、ずっと規則的な生活ですよね。僕が入社した時から全然変わらない印象です。

立)自分の場合、結局は一定の生活リズムを維持する方が作業効率は良いという結論になりました。というのも昔は生活サイクルがめちゃくちゃで、昼過ぎに会社に来て働き続けて、翌日の夜ごろ体力の限界が来たら帰る、みたいなことをずっとやっていた時代もありました。ただそうやって睡眠時間を削って長時間働いているつもりが、家に帰ったタイミングで一気に睡眠をとっているので実はあまり削れていない、ということに気がつきました。しかも体調は崩れていく一方なのでこれはまずいと思って、午前中に来て10時間ぐらい仕事して帰るリズムを試してみたら効率は大きく変わらず、体力的には楽だったのでそのまま定着した形です。あとは常にぎりぎりのサイクルで仕事を回していると、本当にやばい時に逃げ場がないというのもあって、普段は80%で回して、残り20%を非常時に使えるようにするのが大事ですね。吉澤さんはどうですか?

吉)働き方という意味では、2020年のコロナ禍でフィールは夜会社を閉める、という方針になったんです。そのタイミングで夜は家に帰る、というサイクルに必然的に変わっていき、そのサイクルのまま演出の仕事をするようになったのは良かった点だと思います。決められた時間の中で仕事をこなす意識がそれまでよりも強くなりました。

――演出になって、今いちばん大変だと感じる課題は何でしょうか。

立)今ちょうど会社として作画をデジタル化しつつあるところなんですが、アナログとデジタルの間には結構大きな壁があります。社内外で揃っていないフォーマットもあるので、社内テンプレートに落とし込んだりデータを修正したりといった作業も発生するわけで、それを誰かが力業で治すのではなくて、それぞれの作業者が仕様を理解しているのが一番理想ではあるんですが、なかなか難しいんですよね。

吉)従来はとにかく紙の上に描くという形でフォーマットが画一化されているので、誰の上がりであってもタップ穴につければチェックが始められる。ただそれがデジタルになると良くも悪くも自由度が高すぎて、レイヤーの組み方、フォルダの分け方といった部分から個々人のやり方が発生してしまうので、それを社内環境で揃えるところからチェックが始まってしまう。それは演出がやる仕事なのか、という点も含めて課題ですね。本来は演出の手元に届く段階でそうならないよう調整すべきなんですが、まだ整備しきれていない。現実的な観点としてフリーの方は複数社の仕事をされるので、各社のルールに合わせて個別にファイルを調整するなんてことをやっていたら作業効率が落ちるというのも事実なんですよね。

立)なのでせめてまず社内所属スタッフにはフォーマットを守ってほしい。外部の方については状況を見てこちらで直すか、共有を徹底するか。そういったある種の浸透作業を地道にやるしかない。とはいえ業界全体としてもデジタル化の波が来るのはわかっていました。鉛筆削りや色鉛筆といったアナログツールが徐々に生産停止していっています。アニメ以外ではもう使わないから、供給が止まってしまう。時代の流れですよね。そうするとほとんどの人にとっては、仕事として続けていくにはデジタルに慣れるしかない。そうすると作画部としてはなんとかしてデジタルでやっていくことを模索するんですが……

吉)制作部目線だと、アナログとデジタルが混ざるようになると作業が倍になるんですよね。紙の素材をスキャンしてフォルダに入れて、デジタルの人に渡す。逆にデジタル上がりを紙に出力してタップ穴開けて渡す。今まで右から来た素材を集計表つけて左に回せば良かったのが、制作の手元で作業が発生するようになったんです。小さい会社であれば移行は比較的容易だと思いますが、フィールは制作ラインが複数動いていて、テンポ良く回していかないといけない。でも人数はギリギリで、さらにデジタル化で作業速度が落ちる。体感で3分の2、下手すると半分になる。そうならないようにちゃんとルールを作ったり管理の仕組みを整えたりする必要があったので、導入まで相当時間がかかったというのはあります。

――作画部と制作部の話が出ましたが、演出部はないんですよね?

吉)ないですが、個人的にはどこかのタイミングで作る必要があるんじゃないかなと感じています。今は自分も含めフィールに長く在籍している社内演出が複数いますが、これから生え抜きにせよ外部採用にせよ演出が更に増えた場合には、やはりある程度ルールを設けてフィールとしての演出面の統一を図っていく必要が出てくる。そうすると部門を立てた方が良いのではという考えです。

立)制作部で演出希望しているスタッフは他にもいる?

吉)いるにはいるんですが、やはり演出になるには一定量の経験が必要で。例えば制作の仕事をこなしていくことで基礎知識を身に着けていくことはできるんですが、自分の場合5年くらい経験した中で物凄い量の仕事に追われたことでようやく身についた部分もあります。今はデジタル化が進んでいるので、物理的な素材に触れる機会等が減っていることもあり、体感として同じ制作の1年でも得られる経験値が半分くらいになってしまっている感覚なんです。そうすると演出にたどり着くまでに必要な期間が長くなってしまうので、例えば演出を目指して経験を積んでいくルートをちゃんと整備してその期間を短縮するというような取り組みもやっていく必要があるように感じます。作画部側はどうですか?

立)部内にもいますし、スタッフ募集で面接すると演出希望する方にも出会いますね。ただ自分もある種のイレギュラーで演出になっているところがあるので、社内で明確なルートが整備できていない現状だとなかなか次が続きにくいのかなと。そういった意味では明文化していくことで何かが変わるかもしれないとは思っています。

吉)あと演出に限らずフィールのスタッフは割と嗜好が似ている気がしていて、方向性がぶれないというのも会社としての特徴かもしれません。フィルムに対する向き合い方や姿勢が皆さん似ているという意味では閉鎖的と言えるような側面もあって、新参者として馴染むというか、認めてもらえるまでのプロセスでたくさんのことを学びました(笑)

立)真面目なスタッフが多いんですよ。だから作品や自分の仕事に対して責任を持っている。あとは割と昔のアニメ制作会社のスタイルに近いのかもしれないですね。今でこそアニメ業界という大きな枠組み、その中に様々な制作会社が存在しているような感覚ですが、昔はもっと独自色が強くて、言ってしまえば1社1社が独立した村でした。

吉)今も大枠ではその流れが続いていますよね。アニメ制作という大きな村落があって、その真ん中に1本の川が流れている。アニメはこう作るんだという大原則や掟のようなものはありつつも、村にある家1件ごとに細かいしきたりやお作法が異なっている。親戚の家に行けば大体ルールは同じだけど、違う家に馴染むには少し苦労することもある。そんな村落の中で、川から流れてくるスタッフを取り合っているんです(笑)

立)上流にある会社の方が活きのいいスタッフを取りやすかったりね(笑)

吉)ただ上流と下流でどちらがいいというわけでもなくて、それぞれやっていることも雰囲気も全然違うので、上流にいた人が下流にやってくると全然うまく行かないということもあるし、勿論その逆もあります。

立)あとは上流でも川岸から遠い家だとスタッフが来づらい、というようなこともあります。潤沢にお金があってピカピカでも、歴史が浅かったり、村落へのなじみが薄かったりするとなかなか川岸には家を構えられないんです。そうするとスタッフもわざわざそこまでやってこない。逆に下流の小さくて見つけづらい家でも、川岸の知り合いがつながってどんどん原石が集まってくることもある。……難しい業界ですね(笑)

次回第五編では、フィール作品の魅力と、理想としている演出についてうかがいます!

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