演出で大切なことは小林監督から学んだ
――お2人とも小林智樹監督の影響を受けているとのことですが、印象に残っている点などあれば教えて下さい。
吉澤(以下 吉)小林さんは制作畑かつマッドハウス出身で絵も上手いですし、フィールの中では一番コンテが細かいと思います。コンテの段階で表情のニュアンスを絵で入れることもありますし、ト書きも細かく入っている。上がりに対する修正もかなり入ります。動きからしっかり直して、キャラクターの感情がちゃんと伝わるように絵を入れていくタイプですね。
――演出を学ぶ中で印象的だったことはありますか?
吉)「そのカットの中でやらないといけないことをやりなさい」という教えは今でも大事にしています。あとは「確信がないなら変なことはしない」や「修正の指示を入れるときは絵的に面白いとこを探ったうえで具体的に伝える」など。例えば僕がレイアウトチェックしたものを直すにしても、小林さんが全部直すんじゃなくて、口頭で「ここはこう直して」って具体的に言ってくれるんですよね。時間がないからこそ、僕のチェック上がりを見たうえで、自分で考えて次につなげられるように「なぜそうしたのか」を探りながら、どうすればそれが伝わるかを教えてもらう感じでした。あと小林さんは、自分の人格的な部分まで入り込んで、演出のスピリットを教えてくれたと思います。「これだと伝わらないから、原画さんや作画さんに負担がかかっちゃうよ」、「これだと次の作業者さんに失礼になる」など、演出としての所作と大人としての所作をセットで教えてくれた感覚があるんですよ。例えば自分もやりがちだったのが、上がってきたレイアウトに対して否定のコメントを書いてしまうことです。小林さんからは、「否定ではなくてどうして欲しいのか」を書け、と教わりました。たとえば「悲しんでいる表情が欲しい」なら、「この子はこういう感情で悲しんでいる。だから悲しみが伝わるようにしてほしい」と修正意図をはっきり書く。
立田(以下 立)確かに。その方が受け手も作業しやすいですからね。
吉)そうなんですよ。否定されると、作業者は間違えたと感じて萎縮しやすい。でも意図が書かれていると目指すゴールが見えるので、前向きに修正できる。たとえば「笑顔じゃない」って書くと、作業者は「ダメだった」と受け取る。でも演出が欲しいのは「この瞬間の感情」なんですよね。だから「この子はいま強がっている。笑顔に見えるけど、目は揺れていてほしい」みたいに書く。すると作業者は感情の方向を掴めるので、結果として直しが1回で済むことも増えます。
――立田さんは、小林監督からどんなことを学ばれましたか?
立)小林さんに言われたなかで印象的だったのは「作画出身の演出の最大の武器は描けることだから、説明するより描いた方が早い」ってことです。次のセクションに伝える時、絵で示せるのは強い。
吉)制作出身だとニュアンスを言葉で説明しなきゃいけない場面が多いですが、作画出身だとそこで正解をかけちゃうんですよね。そういう点では小林さんも、絵を描ける人としての立田さんへのリスペクトは大きいと思います。
立)小林さんは「絵が描ける人はずるい」って言ってました。「私、描けない。頑張っても描けないのに」って(笑) ただ、描けるがゆえの難しさもあるんですよね。描けば描くほど「そこまで直せ」と伝わってしまうこともある。例えば演出としては直してほしいところを濃く描いたのに、作画監督の癖が抜けなくて、ついでに絵的に気になる部分に薄く線を入れてしまって、そこまで修正指示だと受け取られてしまうなど。無駄な手間を増やすのは良くないので、どこまで描くか、どう描くかは気をつけないといけない。
吉)作画監督的には「描きやすい形」があるじゃないですか。そこを例えば演出から別方向で直されると厳しいように感じたりするものですか?
立)人によると思います。作画監督側でうまく意図をくみ取って対応する人もいれば、深読みしてしまってすべて修正指示として受け取るタイプの人もいる。そういう意味では演出は技術であると同時に、受け手への配慮と信頼で成り立つ伝達の仕事でもあるんですよね。関連して言うと、自分の目線では、助監督を経験している吉澤さんは作品全体のことを把握しているという点が演出としての強みだと思います。一般的な演出は話数やパート単位で担当するから全体は見通していないことがあるのに加えて、仮に原作を読んでいたとしてもアニメの都合で設定を変えているようなこともある。そこで全体をきちんと把握する視野を持っている演出がいて、何でも聞いたら答えてくれるというのは現場からするとすごくありがたいですよね。
吉)ありがとうございます。制作から演出になっている人間としては、今後もそういう部分で戦っていきたいですね。
次回第四編では、演出としての仕事観やキャリアなどについてうかがいます!