演出への挑戦、そのきっかけとは
――立田さんが作画から演出へキャリアを広げられたきっかけについて教えて下さい。
立田(以下 立)前提として、もともとは演出になるなんて全く思っていなかったんですよね。とにかく絵を描くのが好きで、ずっと作画でやっていくんだという気持ちでしたから。もっと言えばアニメ業界に入ったのも、絵を仕事にしたいと考えたときに一番就きやすい職業がアニメーターだったというきっかけからなんです。そうして作画の道を歩んでいたわけなんですが、演出にならざるを得ないのっぴきならない状況に出くわしたのがきっかけですね。ある時、瀧ヶ崎さんに「どうしよう」って相談されたんですよ。何かと言うと、とある作品があって、諸事情によりそのグロスをフィールで請けることが決まった。ただその作品が、正直かなり厳しい制作状況だったんです。
吉澤(以下 吉)拒否権は……
立)大きな力が働いているので、拒否権はないです(笑) やらなきゃいけない、しかも、まずいことに演出がいない。どうやら元のグロス会社が、アフレコが終わった時点で降りたらしいんですよ。言ってしまえばピンチヒッターです。引き継ぎ書もカッティング素材もない、もちろんスケジュールもない。そんな状態で「作ってください」と。普通、そんな状況で引き受ける人はいないんですよね。そうすると社内で何とか演出を立てて進めるしかない。だから「失敗してもいいから演出やってみないか」という話になったんです。
吉)しびれる展開ですね……
立)作画としてはそれなりに経験を積んできているとはいえ、演出未経験ですよ? 「できるわけないじゃん」って感じですよね(笑) そこから瀧ヶ崎さんとも色々話して、最終的には演出引き受けるけど、少なくとも質問できる相手を用意してほしいという条件を出しました。その結果ベテランの方をサポートにつけてもらえたので、打ち合わせにも一緒に出てもらって演出の目線や勘所を教えてもらいつつ、なんとか納品まで辿り着きました。
吉)相当大変な思いをされたと思うんですが、そこでもう演出はこりごりだとはならなかったんですか?
立)もともとグロスや制作協力で入るときの気持ちとして「元請に負けない、むしろ元請を超えるくらいのものを作りたい」という気持ちが個人的にはあります。なのでその時もできる限りのことをやってはいたんですが、その時はピンチヒッターだったのもあって、本来演出として一番やりがいのある部分がちゃんと経験できなかったんですよね。加えて一度演出をやってみると、1本の作品としての在り方に触れられる感覚があった。そこって作画の立場からでは手が届かないので、これまでの仕事では見えなかった景色が見えたんです。20年近く作画でキャリアを積んできて、この歳で新しいことに挑戦できる機会というのもなかなかないと感じたこともあり、せっかくチャンスをもらったんだから、もう少し演出も経験してみたいと感じました。その後フィールで『ぼくたちのリメイク』を制作するにあたって、瀧ヶ崎さんからまた演出やってみないかと声をかけられ、小林監督のもとで経験できるならということで、そこから改めて演出にも関わるようになって現在に至ります。自分の経験を踏まえても、フィールは割とチャンスを与えてくれる会社ですよね。若手に版権絵を任せたりすることもありますし。そういう意味では吉澤さんは制作進行から演出に移行したのはどんな経緯でしたか?
吉)そもそもでいうと、入社した時点では制作から演出に進むというキャリアパスがなかったんですよね。面接で希望としては伝えていましたが確約されていたわけでもなかったので、まずは制作進行としてのキャリアをしっかり積もうという意識で仕事をしていました。結果的には制作進行、設定制作、デスクと一通り制作系のキャリアを経験したところで、当時デスクとして担当していた『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』がひと段落したら、演出を担当してもらえないかという話を頂いたのがきっかけです。ちょうど自分の下の世代の制作が育ってきていて、自分が制作を抜けても何とかなる状態になっていたこともあり、念願叶って演出を経験できることになりました。最初に演出として担当した作品は『ぼくたちのリメイク』で、小林智樹監督と今井翔太さんに色々と教えてもらいながら進めていました。
立)『ぼくリメ』は自分も4話・5話・9話と演出担当した作品なので、今思えば社内の演出人材を潤沢に使ったことでクオリティの底上げにつながったのかもしれないですね。従来のフィールでは制作部と作画部という部門それぞれのルートは明確だった一方で、演出は部門を作らず外注していた。そこにアニメーターから演出になった人間と制作から演出になった人間の両方が社内で生まれたことで、下の世代にとっても演出を志望するキャリアがイメージしやすくなったのは、会社としてもポジティブな影響だったかなと。
吉)日々の仕事においても社内の演出がいることは色々メリットがあると思っていて、例えば他社さんの話を聞いていると、フィールにおける制作の仕事は助監督や演出の領域に踏み込んでいることも多かったんです。本来制作が決めるべきではないところが守備範囲になってしまっているとその分余計な負荷がかかるので、そのあたりは自分が演出や演出助手をやるにあたって改めて整理するケースもあります。
次回第三編では、演出としてのお2人が影響を受けている小林監督とのエピソードなどについてうかがいます!