有限会社feel.
2002年設立。東京都小金井市に本社を構える。
瑞々しい美少女が登場するアニメ制作に定評がある。9月までは『Summer Pockets』がTV放送していた。10月からは『千歳くんはラムネ瓶のなか』と『ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん』が放送中。
瀧ヶ崎誠(たきがさきまこと)
アニメプロデューサー。有限会社フィール代表取締役社長。主なプロデュース作品に『スパイ教室』、『ぼくたちのリメイク』、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』、『ISLAND』、『月がきれい』など。
小林智樹(こばやしともき)
アニメーション監督。主な監督作品に『うたわれるもの』、『sola』、『ティアーズ・トゥ・ティアラ』、『アカメが斬る!』、『セイレン』、『ぼくたちのリメイク』、『モブから始まる探索英雄譚』など。
次世代クリエイターへの期待
―次の世代のクリエイターに期待したいことはありますか?
小林監督(以下 小)期待っていうか引っ張っていってほしいよね。そうしないと、この先アニメ業界が活性化しないですからね。
瀧ヶ崎プロデューサー(以下 瀧)30代前後のスタッフに本当に頑張ってもらいたいです。10年前と比べて情報量も本当に増えたので絵を描くスタッフたちは大変だとは思いますが、その分色々なことができるようになっているので、自分で考えて動ける人はどんどん伸びていく印象です。作業1つとっても、上からの指示をただ紙に落とすのと、そこでちゃんと頭を使って形にしていくのとでは全然違う。例えばうちの若手の穂積はアフレコ済みのデータを聞きながら描くことが多くて。そうすると役者がこういう演技をしたなら作画側でもそれに合わせて芝居を足したい、というこだわりが出てきます。
小)そういうスタッフはやっぱり伸びるよね。手だけでなく頭もちゃんと動かしている。
瀧)ですね。吸収力や対応力が身についてきているので、こちらとしても重要な仕事を任せてみるか、という気持ちにもなります。例えば今回「サマポケ」のOPでも穂積に絵コンテ・演出を任せて、結果として良い映像に仕上がったと思います。まぁその分作業効率は落ちるし考えることは増えるしでとにかく大変なので、マネジメント目線では色々と心配でもありますが…(笑)
小)そういうやり方してると自分にかかる負荷が大きくなるだけじゃなくて、いい意味で周りとのギャップが出てくるからね。本人相当ストレス溜めながらやってるんじゃない?
瀧)そこはほら、最終話終わったら監督がしっかり労ってあげないと(笑)
一同)(爆笑)
小)そういう意味では描く側は大変だけど、見る人たちは楽しいと思うよ。昔は劇場でしか見られなかったようなクオリティの作品が今はテレビで流れているし、本数も多い。昔より、アニメを見る敷居は下がっていますよね。自分が10代の頃なんて「アニメ見るのは小学校ぐらいまで」っていう時代だった。漫画もそう。だからこそ、作り手側としてもやっぱり楽しみながら作る気持ちが大事だと思うよ。大変な仕事だから、アニメーションが好きという気持ちがないとどこかで限界が来てしまう。
瀧)作り手側になると、絵描きでも演出でも続けるのは大変です。とはいえ、業界全体が高年齢化していて、50代・60代の監督も多いのが実情。僕なんかはやっぱり、「青春群像劇を描くのが50代っていうのはもうそろそろ…。」って思うわけです(笑) そろそろ、失敗しても成功してもいいから30代以下のスタッフたちがメインで作品を作ってほしい。僕含め、ベテラン陣が一歩下がって彼らを支えてあげるという状態になるのが一番いい。そうなると最高だな。
小)とてもよくわかる。贅沢になるよね。アニメ業界は大変だけど、好きなら続けられる。俺だって、好きじゃなかったらここまで来てない。今以上に昔はもっと大変だったから、色んな意味で。言えないことも山のようにある。コンプライアンスなんかなかったからね(笑)
アニメ制作環境の今と昔
瀧)今と昔とでは本当に変わりましたよね。ここだけの話、スリッパが飛んだりとか、会社によっては物が飛んできたりとか(笑)
小)誤解されないように言っておくけど今はそんなことないですよ(笑)
瀧)みんな優しくなりました。
小)いいことだよね。ただ、昔の現場が厳しかった背景には、時間ギリギリのところで作業せざるを得ない状況があったと思う。いつも切羽詰まっていたよね。しんどかった一方で、色々学べるところも多かったけど。
瀧)今週の放送が終わったと思ったら、来週分がまだ作業中(笑) どこの制作会社もそんな感じだった。それに比べると今は本当に楽になりました。
小)違う種類のストレスはあると思うけど、あのハードワークさは今ではあんまりない。
瀧)そもそも物理的な稼働時間が全然違っていて、昔はスタジオに日曜・祭日もずっと誰かがいました。今はもうそんなこともありませんね。
小)当時は昼部と夜部っていう割り振りがあったよね。現像所が朝8時に開くから、それに合わせて朝まで撮影して、完成したら走って現像所へ持って行く。そうしないと間に合わなかった。だから制作も夜中作業になっちゃう。前後の工程があるから、どうしても制約があった。あの頃は撮影が始まると当たり前のように2~3日会社に泊まり込みでしたね。
瀧)今はデジタルになって、フィールでは比較的早く帰ることが多くなりました。
『Summer Pockets』で得たものと、今後の展望
―今作を通して得られたものはありますか?
小)長いことアニメ作品を制作しているので、チームとして何か新しく得られたものは特に思いつかないけれど…。でも自分としては、今回やりたいことの全部ができたわけじゃないし、それを糧にして、またいいものを作っていきたいです。
瀧)僕は今回、若いスタッフを何人かちょっと試してみたんですよ。うちの生え抜きのスタッフに版権イラストを描かせたら、けっこういい絵を描いたので「おっ!」と思いました。それが今作で得られたことの一つですね。ただ、古参スタッフと若手の実力差が浮き彫りになってきていて、この差をどう埋めるかが今後の課題です。
小)俺が思うに、実力をつけるためには自分の描いたものにリテイクできるかが大きい。厳しいこと言うようだけど、自分の仕事に簡単に納得できる人は一生伸びないです。もちろんスケジュールの中での妥協は必要だけど、そこに悔しさとか「今回はダメだった」という想いがあれば必ず次につながると思います。
瀧)そうですね。少し踏み込むと、アニメ業界は今、製作費をもらって作品を作るというビジネスモデルが崩壊しつつあります。だから僕は、制作現場から新しいビジネスモデルを発信したい。例えば、フィールで頑張っているスタッフたちにスポットを当てて、スターになっていけるような状況を作りたいと考えています。そのためにもスタッフ一人一人に色々な経験をさせようとしているので、まずはそこでしっかりと実力をつけてもらいたいですね。
ファンへのメッセージ
小)色々と話したけど、楽しんでもらえればそれが一番。現場が大変だということをわかってもらってほしいという気持ちもありますが、見ている人には関係ないですからね。純粋に、作品を楽しんでもらえたらと思います。
瀧)作っている側は大変ですが、アニメを見ているときは幸せな時間を送ってほしい。今の時代ストレスを抱えている人は大勢いると思うけど、僕らの作品を見て「今週も幸せな30分を過ごせた」と感じてもらえたら嬉しいですね。