有限会社feel.
2002年設立。東京都小金井市に本社を構える。
瑞々しい美少女が登場するアニメ制作に定評がある。現在「Summer Pockets」がTV放送中。8月15日からは、劇場編集版「Summer Pockets」の上映が行われている。
瀧ヶ崎誠(たきがさきまこと)
アニメプロデューサー。有限会社フィール代表取締役社長。主なプロデュース作品に『スパイ教室』、『ぼくたちのリメイク』、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』、『ISLAND』、『月がきれい』など。
小林智樹(こばやしともき)
アニメーション監督。主な監督作品に『うたわれるもの』、『sola』、『ティアーズ・トゥ・ティアラ』、『アカメが斬る!』、『セイレン』、『ぼくたちのリメイク』、『モブから始まる探索英雄譚』など。
最新作『Summer Pockets』について
瀧ヶ崎プロデューサー(以下 瀧)サマポケは、とにかくスタッフに恵まれていますね。あと、比較的制作時間もあったかな。
小林監督(以下 小) そう思う。これで時間がなかったら今いるスタッフじゃ足りなかったよね。とにかく誰でもいいからスタッフを連れてきてスケジュールを巻いて作らせるってこともできなくはないけど、その場合は今いるスタッフと同等レベルの人材が必要になる。でもフィールのクオリティを担保できるスタッフが毎回集められるとは限らないからね。
瀧)おっしゃる通り、スケジュールを優先して誰でもいいからスタッフをかき集めるというやり方は、フィールとしては正解ではないですね。
小)フィールとしてのクオリティは保たなければいけないわけだからね。スケジュールとクオリティを両立するためには、優秀なスタッフがたくさんいることだけど…。
瀧)優秀なスタッフがたくさんいたらその分早く終わる、というわけではなくて、ますますクオリティを求める方向に突っ走るだけです。「もっといけ!」「頑張るんだ!」ってね(笑)
小)とてもよくわかる。贅沢になるよね。
瀧)人の欲望ですよ(笑)
「ライティング」へのこだわり
小)クオリティという意味では、自分が監督になった時に最初に掲げた目標が「ライティング(光)にはこだわる」ということです。室内なら室内、屋外なら屋外というライティングをできる限りやろうと決めました。その考えは今も変わっていないですね。だから俺の作品は、どれもかなりライティングにこだわっています。まだまだ全然やりきれてない部分はあるけどね。
瀧)いろんな制約がありますからね。
小)実は、俺の作品はほぼ「ノーマル色」というのがないんです。ベースの色は決めるけど、そのまま使うことはほとんどない。
瀧)うん。ないですね。
小)最初に「このキャラクターはこの色だよ」というベースの色を決めるけど、室内か室外かによっても色の見え方って違うから、色を作り直すんです。だから、ベースのノーマル色を使っていることはほぼない。でも、そこにこだわっている人は、すごく少ないんだよね。だから、アニメーション作品を見ていると、たまに不満だらけになるの(笑)「室内暗いのに、なんでこんなノーマル色なんだ?」とかって思うことがありますね。
光と影のコントロール
小)光のコントロールっていう意味では、今一番理想に近づいたのは新海さん※だと思う。新海さんは本当にすごい。あの表現は、おそらく全部自分でやるからできるんじゃないかな。集団では難しいと思う。
※新海誠さん
コミックス・ウェーブ・フィルム所属のアニメーション監督。主な監督作品は『君の名は』『天気の子』など。
瀧)自分でコントロールしている部分が多いから、バランスを壊さず作れるんじゃないかな。個人で制作していた経験も長いし。集団作業だと、テンプレートや基準がないとぶっ壊れていってしまいますからね。
小)集団でもできなくはないと思うけど、やろうとしたら最初の段階でよっぽどコントロールしないとだめだよね。自分の中の理想をいうと…レイアウト上がったら、一回背景を全部仕上げてもらいたい。背景がびっちりあって、そこに合わせてキャラクターを乗せていくっていうのが理想だね。そうすると、背景の光の方向がわかりますから。
瀧)気持ちはわかるんですけど、背景の上にキャラを乗せていくっていうのは相当贅沢な作り方ですね(笑)
小)テレビを見ていると、たまに気になっちゃうんですよ。背景の影が長く伸びているのに、キャラクターの影は真下に落ちてることがあるわけ。それっておかしいじゃん?そんなこと気にして見ている人はいないだろうけど、俺はそこに目が行っちゃう。100歩譲って、昼は許せる。でも、夕方は光の方向がわかってるんだから、それぐらいやってくれよ~!って思う。職業病だね。
瀧)(笑)
ファンを増やすアニメ化とは
―瀧ケ崎さんはプロデューサーとしてどういう人に作品を届けたいですか?
瀧)少なくても、原作に届いていたお客さんにアニメのお客さんが届かないってことは絶対したくない。きっと一番期待してアニメを待ってくれている人たちなので。アニメにしたことによって、お客さんが2倍3倍に増えていくのが理想です。
小)原作ファンに愛されている作品は、結構大変だよね。サマポケはゲームからアニメ化しているから、ゲームの楽しさが再現されてないと不満が出るんだと思います。
瀧)視聴者の感想を見ていると、絵の部分についてはほぼほぼ合格点をいただけていると思います。だけど…アニメ化するにあたって割愛した部分には、みなさん超~敏感ですよね!(笑)
小)ほんとだよね。でも2クールやるんだから相当頑張ったことはわかってほしい(笑) まぁでも、どんな作品でも必ず賛否はあるからね。しょうがないよ。
瀧)1クールで終わらせるときも結構言われますよね。だからと言って、サマポケを3クールやったら今度は間延びして長いって言われたような気がするし…。このあたりは悩みどころです。ただこういうのって、ファンの中でも違いはあるのかな、と思いますね。一部のファンの子達は、「物語のペースはよい」という感想を多く見かけました。でも、別のファンは、「このシーンもあのシーンも端折ったのか!」みたいな感想があって。「僕だって入れられるなら端折りたくはなかったよ!」と伝えたい(笑) あとは、その中でベストを尽くすために現地ロケハンもしっかりやりました。最初に2泊3日で行って、そのあともうちの制作スタッフが何回もロケハンに出ていますね。
小)やっぱり風景を生で見ると違うんだよね。
瀧)その後の打ち合わせがすごく順調にいきました。現地を見ているから、イメージの共有がスムーズにいくんですよね。言葉にしなくても「ああ、あれね」で通じるから、コミュニケーションの点でとても良かったです。
デッドラインとのせめぎあい
小)作品作りの観点だと、ちょっと言い方悪いかもしれないけど、言われたことしかできない作監って多いんですよ。作業に徹しちゃう。逆に、自分からこうしたいって提案できる人はなかなかいないんです。だから、監督や作品の意図を理解して、コンテ読んで、自分から「こうしたいんですけど」って提案できる演出思考のある作監は、貴重だと思います。ただ…そんな作監が歩むのはイバラの道です。
瀧)倍働かないといけないからですよね。アニメーターの多くは絵を描く作業に専念しているので、演出まで考えている人は少ないんです。「このキャラクターだったらこういう仕草をするだろうな」「こういう表情をするだろうな」というようなことを考えている作監は、あまりいないといっていい。演出以外の立場でそこまで考えて作って行こうとすると、これはもう大変です。
小)みんな忙しいんですよね。なかなか演出までは考える時間が無い。あとは、スケジュールの中で何ができるのか考えるのもプロの仕事だと思いますね。中には、自分のやりたいことを頑として譲らず、デッドラインを理解しないタイプの作監や作画の人もいます。昔はそういう人がいっぱいいたから、コントロールがすごく大変でした。最近は仕組みも含めて色々と整理が進んでいるからやりやすくなってるかな。でも、本当のプロってスケジュールもちゃんと意識できる人だと思います。
瀧)どんなに良い仕事をしたとしても、時間がなくなればタイムオーバー。そのバランス感覚は非常に大切ですね。良い意味であきらめるっていうことが大切なときもあるんです。アニメーターとしての道のりの中の、どのタイミングで「あきらめる」を経験するのか、そこから何を学んで次に活かすか、というのも成長するうえで大事なことかもしれないですね。
小)俺もね、細部までこだわっていた時期はあった。指先にまでこだわったりして。ただそうやって作っていると本当にきりがないし、スケジュールにも影響してくる。でも正直、こだわった本人ですらその後いちいち見てない(笑) 今はバランスも踏まえながらある程度こだわりをそぎ落としているから、きっと作業的には早くなっていると思う。逆に最近では、「俺、昔はここまで頑張ったはずなのに、だいぶ手を抜いてるな~」って思うときがある(笑)
瀧)いやいや何を言ってるんですか!(笑) 26話(最終話)でめちゃくちゃ修正出してましたよね?
小)あんなの全然足りないよ(笑) それこそ一番こだわっていた時期だったら、もっと直したと思うよ。
瀧)うちの若手の作監たちが泣きながら直してた(笑) 監督の求めるレベルが高すぎる~~!!って。
*次回第四編では、次世代を担う若手アニメーターに期待したいことや、アニメーション制作現場の今と昔、今後の展望についてうかがいます!