• 対談ログ-良作美少女アニメを生み出すfeel. (第二編): 瀧ヶ崎 誠(プロデューサー兼社長)×小林 智樹(アニメ監督) -
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制作情報

対談ログ-良作美少女アニメを生み出すfeel. (第二編): 瀧ヶ崎 誠(プロデューサー兼社長)×小林 智樹(アニメ監督) -

feel.

今回は、現在TV放送中の作品『Summer Pockets』(©VISUAL ARTS/Key/鳥白島観光協会)でもタッグを組んでいる有限会社feel.瀧ヶ崎プロデューサーと小林監督に対談いただきました。

アニメ業界で二十余年をともに過ごす、二人の第一印象から仕事観、最新作『Summer Pockets』の話題まで。台本なしの本音トークをお届けします。 

有限会社feel. 

2002年設立。東京都小金井市に本社を構える。 

瑞々しい美少女が登場するアニメ制作に定評がある。現在「Summer Pockets」がTV放送中。815日からは、劇場編集版「Summer Pockets」の上映が行われている。 

  

瀧ヶ崎誠(たきがさきまこと) 

アニメプロデューサー。有限会社フィール代表取締役社長。主なプロデュース作品に『スパイ教室』、『ぼくたちのリメイク』、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』、『ISLAND』、『月がきれい』など。 

  

小林智樹(こばやしともき) 

アニメーション監督。主な監督作品に『うたわれるもの』、『sola』、『ティアーズ・トゥ・ティアラ』、『アカメが斬る!』、『セイレン』、『ぼくたちのリメイク』、『モブから始まる探索英雄譚』など。 

 

 

コンテが勝負の分かれ目。 

ーアニメ制作でこだわっているポイントを教えてください。

 

小林監督(以下 小)全部ですね。最初から最後まで。監督の立場だけいうと、まずコンテ。コンテは一度目を通してOK出したら、それ以降ほぼ(コンテの)修正はしようがないんです。だからそこはすごく集中する。逆に、その後の作業って実はリテイクが可能なんですよ。「ここは違うから直そう」「ちょっと手を入れよう」ということはできる。でも、コンテまで遡って直すのはなかなか難しいんです。だから監督の仕事としては、やっぱりコンテまでが一番大事だと思うことはあります。そこまでは監督が唯一全部手を付けられる部分ですから、シビアに目を通します。それ以降は演出さんに委ねますね。

 

瀧ヶ崎プロデューサー(以下 瀧)各話の担当演出については僕が決めてるんだけど…すごいぶっちゃけな話になっちゃうな。(笑)

 

小)()

 

瀧)話数によって、作画カロリーが違うわけですよね。作画カロリーが高い話数は、絵が描ける演出をあてがわないと、そもそも絵のコントロールができない。だから、なるべく絵を描ける演出を中心に置きます。逆に、この話数はドラマだけで見せるから、極論絵が止まっててもなんとかなるな、というときは、絵が描けなくてもリズムが作れたりとか、演出として間違ってないことをやれる人を配置します。大体コンテが出来上がれば、絵描きも演出もハマってくるんですよ。脚本とコンテまでできちゃえば、語弊があるかもしれないけど7割は終わってるんだよね。作業は。

 

小)「コンテと脚本までできてればラクでしょ?」って言われることある。()

 

瀧)()

 

小)そりゃ極論だけどね。()

 

瀧)コンテは、ビルでいう「スケルトン」の状態まで作り上げる工程だから。大まかなことはできてるから、これ以上レイアウトも動かせないし。現場の作業は多いからつらいけど、クオリティはコンテで7割くらい決まっているかなと思いますね。

  

崩せない二つの要素――「絵」と「色」 

瀧)その意味では、こだわりというと僕は 2つしかない。それは絵と色です。正直言うと、ディレクションの部分や脚本で思うことはたくさんあります。でも「ここはもう僕の範囲じゃない、監督の範囲だ」と思ってます。「いじらん・さわらん」という感じですね。僕がいじるのは絵と色だけです。視覚的に飛び込んでくる絵柄の部分は、絶対絵として崩さない。キャラクターのセルと背景が崩れていなければ、お客さんが満足するレベルになります。

あと大きいのは色味。キャラが若干崩れていても、色味が綺麗だと画面のクオリティを保てることってあるんですよ。そこが逆にフィールの特徴になってる部分かなと思ってはいますね。特に、背景のセルの色味は視覚的に情報量が大きいので、そこはしっかりコントロールしています。たとえば、ブルー系の背景を持ってくれば「もの悲しいシーン」とか、青白い光の中にいれば「幻想的なシーン」という感じで見ている人に記号として伝わることってありますよね。こういう鉄板のパターンを間違わなければ狙った表現がきちんとできるので、そこはめちゃくちゃ意識してコントロールしています。あと、僕さっきディレクションに踏み込まないといったけど…。動きがあっても絵が破綻していたら、「監督、動きを止めましょう」と言う時はありますね。「この強い1枚の方が絶対勝つ」という場面は、迷わずそうしますね。

 

小)もちろん、動いて綺麗だったらそれがベストなわけだけど。限られた時間で何がベストか判断しなきゃいけない。原画を直す方からすれば一日作業になるわけだからね。

 

瀧)「動きを止めましょう」と言っても「やだよ、動かしてよ」と言っちゃう監督もいるんです。1回きりなら許せるけど、何かあるたびに言われちゃうと「この監督、うちの状況わかってるのかな?」って思ってしまうところがある。(笑)

 

スケジュールとクオリティラインの判断ポイント 

小)スケジュールとクオリティのバランスってのは、最終的には自分が客として見たときにどう感じるか。問題がなければOK。客として見たときにどう考えてもおかしいよ、と感じたらそれは直さないといけないよね。先ほども言ったように「誠実」である、ということですよね。最終的に見るお客を意識する。このまま出しても恥ずかしくないということ。誠実ってそういうことだと思っています。

 

瀧)どちらかというと僕はスケジュールぶっ壊す方なので。(笑) どうしても直す必要があってもスケジュールが無いと言われたら僕が社長として伸ばします。費用はもちろんかかるし現場は大変だけど。

 

小)現場としては、大変かもしれないけどありがたいですよ。だって現場の人たちだってなるべくなら恥ずかしくないものを出したいと思っているわけだから。

 

瀧)実際僕は、現場でプロデューサーやってるときはお金のことは考えない。あとで請求書見て「やっちまったなー!」と。(笑) 「次の作品頑張ろう!」って。(笑)

 

小)爆笑

 

瀧)スケジュールの話でいうと、僕の場合は現場のスタッフィング権を握っているので、「これ以上この話数で負荷をかけると、以降の話数がぶっ壊れるな」というラインはなんとなく見えるんです。これ以上やっちゃいけないなという空気感や人の疲弊度を見ながら、撤退ラインを決めるという感じですね。

 

小)それができているのは、フィールが「自分が視聴者として見たときに納得できる」というところからスタートしているからこそですよね。あとはそのスタートラインから、クオリティをどう上げていくかというレベル。だってぶっちゃけると、実際には、ふたを開けてみると「もう全部直したい!」って思う作品に出会うこともあったりするわけですよ。

 

瀧)()

 

小)でもそれは、もうスタッフどうのっていう以前の話になっちゃう。全然スタートラインが違うわけだよね。だからスタートラインを上げるというのは大事な考え方だと思う。

 

瀧)こう見えて僕は、何回も失敗しているんですよ。「あの時はできなかったなぁ」とか、「人がいなかったなぁ」とか。諦めて、諦めて、諦めてきた経験があるんです。だから、次の作品はここを諦めないように「この部分を補充しておこう」とか、「うちでは耐えきれなくなるからこれはやめようか」というように、今までの経験のとうちの戦力を踏まえて逆算したときに「ここまではOK、ここから先はダメ」というラインを、作品ごとに決めながらやっているのが実情です。

 

小)瀧ケ崎さんは、ここは確実に大事なシーンだからこの作監しかありえないという人をちゃんと配置しているからね。ここで作監のあてがい方や原画のあてがい方を間違えるともう戻れないわけだから。適材適所にスタッフを配置することでクオリティを落とさない。そこが上手い。

 

瀧)ようやくここまで来たなー。(笑) なんとか恥ずかしくないものを出せる所まで来たな。うちの場合は、仕上げ部門も撮影部門も作画スタッフも充実しているので、フィールとして本当にやりたいことがスタッフに伝わっているわけです。制作の最初の段階で改めて僕から伝えなくても、ベースができてる。作画も演出も仕上げも撮影も編集も。それはうちの強みなんだろうなというのがあります。あとは…社内に背景がいたら最高です!

 

背景美術スタッフ不足の現実 

ーなぜ社内に背景がいないのですか?

 

瀧)一つはコスト。もう一つは、有能な人材が少ないからです。大手会社でも美術監督さんは数名しかいない。

 

小)背景は大変なんですよ。美術ボードや美術設計といった本当にスタートから作れる人は全然足りない。取り合いです。

 

瀧)「ずっとキャラだけ描いてきました」という子たちはおそらくたくさんいるんだと思います。でも背景の美術ボードや美術設定の場合、建物や街の構造を知らないと建物は描けないんです。世界観設定を作れないと美術って作れない。すごく贅沢な言い方すると1級建築士ぐらいの資格くらい持っていてほしいって思う時がありますね。(笑) 実際それくらいの知識がないと美術設計って描けないですよね。

 

小)その中でも、こだわれる人はごくわずか。

 

瀧)そう。作品の世界観の根本を作れる人たちって、極わずかで。美術スタジオは日本に30か所ほどだとすると、世界観設定を作れる方は各スタジオに12名とすれば、全部で60人ほどしかいないんじゃないでしょうか。そういう人材を社内に抱えるのは簡単じゃないですよ。本気でやろうと思ったら、美術スタジオごと買い取るくらいの規模じゃないと難しいです。

 

 

次回第三編では、最新作「Summer Pockets」の制作の裏側や見どころについてさらに踏み込みます。まだまだ対談は続きます!

 

 

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