──ここからは方向を変えて、直近の長編作品『超かぐや姫!』の制作現場についてお聞きしていきます。まずはこれまで経験された作品制作と比較して印象的だった点があれば教えて下さい。
業界のワークフロー的な話になりますが、私が『超かぐや姫!』で制作進行を担当したパートは、オーソドックスなフローに似ているようで若干違うところがありました。コロリドのような2Dアニメーションを主戦場とするスタジオでは、LOラフ原画(以下ラフ原)の工程は手描きのアニメーターさんに描いていただくことが一般的なのですが、実を言うと、今回私が担当したパートは「『フルディティールなキャラクターの3Dモデルを動かし、そのモデルで表現しきれないところを作画で補ったもの』をラフ原とみなす」というフローで進めています。加えてラフ原の制作を担当いただいた方々は絵が描ける人たちでしたが、基本的には3Dモデルを動かしてラフ原を作るという職務に絞ってアサインされていたため、後続の原画の清書までは彼らが行わない想定でフローがデザインされていました。そのため、いわゆる「第2原画」と言われる工程が私の担当するパートの全カットに、具体的な数としては300カットほど発生しています。第2原画が発生すること自体は珍しくないのですが、制作進行1人の担当パートの中で300カット規模になることはそうそうないですし、ましてや3Dモデルをベースにしたラフ原という意味でイレギュラーな素材の清書をどれだけの方に頼めるか、自身のコネクションがかなり試されましたね。
──相当な量ですね。質も担保しながら量をこなしていくための、依頼先を選ぶ際の考え方やアプローチについて教えていただけますか?
担当する制作進行によって属人性が非常に大きいという前提の元ですが、私の場合だとまず頼む相手に「こういう理由があるからあなたに頼んでいます」というフックを用意することを意識しています。また『超かぐや姫!』に関して言えば、事前の見積もりから総作画枚数がコロリドの過去作をはるかに凌駕するだろうことが読めていたので、すでに知っている相手先にお願いするという発想だけではなくて、初めましてのスタジオ様に声をかけることも多かったですね。結論、今回色々なスタジオ様に第2原画をお願いするにあたっては、私が京都でアニメーションを制作しているという状況を踏まえ「同じく地方で働かれている皆さんと仕事がしたいです」という点を強調しました。それこそYoKIRINを利用されている旭プロダクションの白石スタジオさんなど、地方のスタジオ様に色々と働きかけながら膨大なカット数を捌きましたね。加えてもう少しワールドワイドに見ると、海外に頼む場合に選択肢となるスタジオ様の拠点は中国に置かれていることが多いです。その意味で海外のアニメスタジオの分布を中国中心と考えることもできますが、その際にある種の「地方」として浮かび上がる別の国々、具体的にはアメリカやアルゼンチンなどの方々にもお力添えをいただいております。『超かぐや姫!』の制作にあたっては、そうした自分なりのフックを持って挑んでいました。
──Netflixで配信もされていてワールドワイドに広がっている作品ですが、作り手もワールドワイドに広がっているのは面白いですね。依頼にあたって齟齬が生じないように工夫されたことはありますか?
カット単位の発注になるため、どういったストーリー的な前後関係を持つカットがその方に頼まれているのか文脈をちゃんと理解したうえで手を動かしてもらえるよう、必要な資料の手配は事前にしっかり行うことを意識していました。あとは頂いた質問にはちゃんと真摯に向き合うとか、そういうやりとりを愚直にこなしていたくらいですかね……。
──制作にあたり特に強くこだわられたカット、思い入れのあるシーンがあれば教えてください。
ぱっと浮かんだのは2カットあります。1つはカットナンバー1019「神戦(KASSEN)」というゲームを「SENGOKU」という対戦形式にて行うシーンの終盤で、帝とかぐや&彩葉のコンビが戦うアクションカットです。カメラワークをぐるぐる回しつつ迫力のあるバトルを描くというカットで、相当思い入れがあります。もう1つはその続きにあたるカットナンバー1106、帝との戦いを終え、あと少しで決着というタイミングで、かぐやが「勝ち確~!」と言いながらハンマーを振るカットです。かぐやの表情にこだわりたかったので、第2原画と動画は京都スタジオのメンバーに担当してもらいました。
──ありがとうございます。それぞれ作品的にも大きな見せ場であり、とても良いカットに仕上がっていたと感じますが、成功要因などがあれば教えてください。
先ほど第2原画工程において自身のコネクションが試されたというお話をしましたが、それより手前の工程は社内スタッフで固めることができていた点は明確な成功要因だったと感じます。3Dソフトを用いてアニメーションを動かせる人材が2Dアニメーションの業界にはまだまだ少ないので、今回コロリドとスタジオクロマトのメンバーとでまず基盤を固めることができていたことは大きかったかなと。山下監督の意思やメンバーの技量がフルに詰まったラフ原ができ、そこにコロリドの過去作品ですでに要職を経験済みの演出陣・作監陣が的確な修正を入れてくれるので『超かぐや姫!』への解像度が相対的に低い他のスタジオ様に後工程をお願いするにあたっても、クオリティが大きく崩れることはないという感覚がありました。