―――今後アニメーション制作の現場で目指していきたいことや、将来の目標などがあれば教えてください。
オリジナルの劇場アニメーション作品を作ることが大きな目標です。作画と演出の両方を手掛けながら、自分の世界観を表現できる作品を産み出したいと考えています。また、描いたり作ったりする人が物理的に寄り添って何かを作る環境が好きなので、そういった環境がうまく回る形になればいいなと最近強く思うようになりました。その意味では京都精華大学でも教鞭を執っているので、次世代のクリエイターを育成することにも力を入れていきたいですね。作品に込めたメッセージが視聴者の人生によい変化をもたらすことを願いながら、技術面でも新しい表現方法にチャレンジしつつ、普遍的なテーマを追求していきたいと思います。
―――メッセージについては、どんな想いを届けたいと感じていますか。
アニメーション作品を見て、その作品世界やキャラクターを自分と重ね、人生が変わることがあると思います。アニメーションは現在数多く作られ、作品を楽しむ間口も広がってきている中で、私としてはぜひ視聴者の方々にポジティブな影響を受けて欲しいと考えています。憧れや理想といったものがたくさん詰まった作品を浴びることで、それを「観た」という経験で終わらせるのではなくて、そこから得たものを自分の人生にも活かしていける。作品ごとに違いはあれど、そんなメッセージを届けたいですね。
―――劇場作品とテレビ作品の違いについてはどのようなところにあると感じていますか。
映画に関われば関わるほど、意志や能力がものすごく試される媒体だなと思いますし、シリーズのテレビ作品を作る体力とはまた違うものが求められる世界です。私自身、毎週物語が続いていくテレビシリーズにあまり馴染みがなく、むしろ90分や120分という尺で起承転結が収まる映画という形の方に親和性を感じています。映画館という場所自体も愛しているので、能動的に映像を見たいと思ってくれるお客さんに、映画館で見たいと感じさせるような作品を届けられたら、それはすごく幸せだと思います。
―――作品作りにあたって大切にしていることについて教えてください。
何よりも関わった人みんなが幸せであることを大切にしています。素晴らしい作品ができても、スタッフが辞めてしまったり、正当な対価が払われなかったりするのは、本当の意味で豊かではないと考えています。ですので、作品の質だけでなく、制作プロセスにおいてもみんなが前向きな気持ちで取り組める環境づくりを心がけています。一過性の成功よりも、長い目で見て、関わる人たちにとってプラスになる形で作品を産み出していきたいですね。
―――作ってみたい作品やジャンルなどはありますか。
企画書を書くのは好きなので時々考えをまとめていますが、興味対象は半年程度で変わってしまうこともあるので、具体的にお伝えするのは難しいですね。現時点では、時代性を反映した作品を作りたいと思っています。現代の人々がどんな願望を持っているのかを探求するような題材に興味があるので、そういったテーマを深く掘り下げ、観客の心に響くような作品が作れたら素晴らしいですね。劇場アニメーションは没入感を出すことができるので、そういった作品に適した媒体でもあると考えています。例えば身体性を手放していこうとしている今の時代に、裸足で雑草の上を歩くような、レアでリアルな経験がどのように感じられるのか、そんな人たちは自身のブログにどんなことを書くのか、といったことを考えたりしています。あえて玄米を買ったり、わざわざキャンプ場に行って焚き火をしたりといった行為も、昔は当たり前にやっていたことが今はお金を払ってやるようになっている。技術進歩でどんどん便利になっていく中で、そういう極地的なところに行き着いたときに、人が身体性をどう捉えるのかを描いてみたいですね。
―――最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。
アニメーションは、年齢や国境を越えて多くの人々に愛される表現方法だと思います。一つ一つの作品に込められたクリエイターの思いや、キャラクターたちの生き様に触れることで、自分自身の人生も豊かになっていくのではないでしょうか。これからも、心に残る作品づくりを目指して精進していきますので、応援していただければ幸いです。そして、もしアニメーション制作に興味を持った方がいらっしゃったら、ぜひ一歩踏み出してみてください。厳しい世界ではありますが、やりがいに溢れた素晴らしい仕事だと私は信じています。一緒にアニメーションの未来を作っていきましょう。