―――アニメーションの仕事に携わろうと思ったきっかけを教えてください。
小さい頃両親が共働きだったため1人で家にいることが多く、夜遅くなると外に出られないような環境だったのですが、そんな時にそばにいてくれたのがアニメでした。そうした原体験もあり、寂しい思いをしている子供やつらい状況に置かれている人にとって、アニメを見ることがほっとしたり元気になったりするきっかけになれば、という思いからアニメーション制作に携わりたいと考えるようになりました。
―――当時どんな作品に影響を受けたか覚えていますか。
まず1つ目にスタジオジブリ作品ですね。当時、金曜ロードショーでスタジオジブリ作品がよく放送されていたので、VHSに録画し、繰り返し見ていました。特に『となりのトトロ』が大好きです。また、ディズニーの手描きアニメーション全盛期の『白雪姫』や『眠れる森の美女』なども何度も見ていました。お気に入りのシーンほどビデオテープが劣化するのが早かったのを覚えています。またもう少し成長してから見た作品でいえば、『蟲師』と『AKIRA』の2作品にはクリエイターとして大きく影響を受けています。
―――いずれも名作ぞろいですね。
『蟲師』と『AKIRA』は、原作の漫画をアニメという媒体に非常に綺麗に落とし込んだ作品で、私の理想とするアニメーション化、アニメ映像化の究極点だと考えています。尊敬するアニメーターが多数参加した作品でもあり、色褪せないクオリティ、巧妙なストーリー構成、映像美、音楽など全ての要素が素晴らしいです。今から約20年前に放送された『蟲師』、そして私が生まれてもいない37年前に上映された『AKIRA』は、現代でも私含め沢山の方を魅了し、アニメーションとはここまでやれるのか、と観るたびに衝撃を受けています。私にとってはバイブルのような存在です。
―――ありがとうございます。バイブルの影響も踏まえ、金原さんが仕事として意識していることなどはありますか。
両作品から最も影響を受けたのは、アニメーションは動きを描くものだと気付かされた点です。現代のアニメーションはキャラクターデザイン重視で動きが少ない作品も増えていますが、私はアニメーションの本質は動きにあると考えています。『AKIRA』ではクリエイターの熱量が込められた動きが随所に見られ、派手な動きだけでなく日常動作にもキャラクターの個性が表れています。一方『蟲師』は感情の揺れや神秘性、現実には存在しない「蟲」が本当に存在していると錯覚させるような説得力が、繊細なアニメーションの動きの中に存在しています。私も基礎を踏まえつつ、作品が伝えたいものは何か、作品の個性をどう出すかを大切にしています。
―――そんな金原さんにとって、仕事や新人教育でのやりがいを感じる瞬間やエピソードがあれば教えてください。
新人アニメーターと新入生の両方に共通するのですが、教育をする中で本人が努力を重ね、出来なかったことが出来るようになってゆき、さまざまなことに自ら挑戦していく姿を見るのがやりがいです。今現在京都スタジオに勤務している方の話になりますが、入社してすぐには全然描けず挫けそうになっていた状態から、1年後には難しい動画の仕事に自ら手を挙げて、1ヶ月ほどかけて朝早くから夜遅くまでスタジオで頑張り、締め切りを守ったうえで完成させたことがありました。指導や上がりのチェック対応も大変でしたが、そういった成長の過程を見られるのが教える側としてのやりがいだと感じています。
―――アニメ制作の新人が成長した結果、というのはどのように表れるのでしょうか。
例えば最初は原画を綺麗にトレスできなかったり、中割り(原画から原画へ、アニメーションの動きを繋ぐ作業)が破綻してしまったりすることもあるのですが、先ほどのエピソードの後日談として、他社のスタジオから素晴らしいクオリティの仕事をしてくれたと大変感謝され、菓子折りまでいただきました。社内では何とでも言えますが、他社から高く評価されるレベルにまで教え子が努力を重ね、成長したのだと実感した時は、本当に嬉しくて涙が出るほどでした。
―――心温まるエピソードですね。一方で金原さん個人としての目標や夢についてはどうお考えですか。
目標としてはご視聴いただいた時に気持ちが前向きになれるような作品や、将来の選択肢が増えたり何か新しいことに挑戦するきっかけになれるような作品を作りたいと考えています。キャリアプランとしては、現在の大学教員とアニメーターの兼業を続けていきたいと思っています。
―――教員とアニメーターの兼業はそれなりに負荷がかかるかと思いますが、それでも続けていきたいと感じておられるのですね。
そうですね、どちらに本腰を入れていくか迷うこともありますが、今が充実しているので兼業を続けたいと感じています。アニメーターとしての新人教育と大学教員としての講義や実習は、将来のクリエイターたちへ知識や技術を伝える”教育”の部分が共通しています。私は教育をする立場ではありますが、反対に新人の方や学生たちから学びを得る機会もあります。学び成長してもらい、そして私自身も学ばせていただいている環境を、これからも大切にしていきたいです。また、教育に拘る一番の要因は、今後AIなどの技術進歩によってアニメーションを作る際に必要な人手が現在よりも少なくて済むようになる、果ては1人でも短期間で長編大作アニメーションが制作できるようになってくるのではないかという懸念が大きいためです。ただ技術が普及したとしても、アニメーションの知識を持ち得ていない人が作る作品と、しっかりアニメーション知識を持っている人が作る作品では必ず違いが出ると思います。そうであれば、知識や技術を教え受け継いでいく人は今後も必要になるため、改めてアニメーターと大学教員の兼業は続けていきたいと考えています。
―――環境変化を見据えておられることが伝わってきます。作品作りに関しても今後目指している目標やスタイルがあれば教えてください。
個人的には造形やデザインに凝ったキャラクターを中心としたアニメーションというよりは、映像作品として動きに注力したアニメーションを作りたいと考えています。昨今のデザインは線が増えて動きを考える余白がなくなってきている中で、作風で言えばスタジオジブリや細田守監督の『時をかける少女』のように、線を少なくしてその分動きを考える時間をたくさん使い、見ている人に動きを楽しんでもらう、あるいは動きで心象描写を表現するような作品を作っていきたいとスタジオでも話しています。
―――ありがとうございます。最後にアニメファンの皆様にメッセージをお願いします。
昨今、アニメーション作品だけでなくクリエイターにも注目していただく機会が増えたと感じています。SNS等を通じて、観客の皆さまとクリエイターが昔よりも交流しやすくなったことも、要因の1つではないかと考えています。応援のメッセージや作品に対しての感想などを身近にいただけて嬉しく思いますし、励みになっております。また、アニメファンの皆さまからもアニメ業界の過酷な労働環境が改善するよう声明を出してくださったりなど、心強いお力添えをいただいたことで、ひと昔前と比べて非常に働きやすい環境へ向かっていると身をもって感じており、日々感謝の念に堪えません。クリエイター視点から、こうしたサポートをしてくださる方がおられることについても、深く感謝申し上げますと共に、ご期待に応えられるようなアニメーション作品を作れるよう努めてまいりますので、これからも応援いただけますと幸いです。